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                                    2011.9. 28受
        受賞のことば ー 手と手を重ねあわせ 
                                  季村敏夫  

 受賞は、岩手県の遠野を友人たちと車で疾駆していたときに知りました。

宮沢賢治もよく乗った花巻と釜石を結ぶ銀河鉄道と偶然に並走していた夜。

大津波と火災に襲われた下閉伊郡山田町のケアホームでの野染めの

帰路でした。終始ひとことも言葉を発することのなかったダウン症の

女性の手を握りしめると、眼前の頬はみるみる紅色に染まり、両目は

あふれる涙。これはやばい、そそくさと車に乗りこみ数十分ほど経った頃、

嗚咽がこみあげてきました。ふるえる女性の身体が、さまざまな記憶を

呼び覚ましたからです。岩手県は私の本貫、宮古の浜辺で、北ボルネオの

捕虜収容所を出て復員した父は、十九歳の母と出遭いました。未生の

記憶までおしよせ、驚きました。やっとしずまった頃、受賞の知らせが

ありました。

 手の平による伝達。言葉にできない、語りえないこころのふるえを

絶えず意識し、手と手を重ねあわせ遠方の野へ、世界を染めていこう、

改めていい聞かせています。

 

 

 

 

 

 

 

 

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